2018年6月28日、D4DRが企画・運営に関わる「Next Retail Lab」フォーラムの第15回が開催されました。

今回の登壇者は、「EDIFICE」「JOURNAL STANDARD」「IENA」などを展開するアパレル企業のベイクルーズに2018年まで10年間在籍されていた、村田昭彦氏を迎えました。

村田昭彦:総合アパレル企業を経て、2000年よりネットベンチャー企業に入社し、取締役としてEC事業、Webメディア事業、Web制作事業に従事。 2007年より株式会社ベイクルーズに入社し、グループ全体のEC事業、情報システム、CRM、オムニチャネル推進など、IT領域全般を統括。現在はフリーランスでオンワード樫山のプロジェクトを手伝っている。

アパレル市場の環境の変化

アパレル市場規模は変化しており、1991年業界全体の売上高15兆円あったものが、2008年リーマンショック時に9兆円、近年はゆるやかに復活して10兆円規模となっています。2016年時点でのEC化率は売上全体の11%だが、その割合は伸びてきています。しかしEC売上が伸びても店頭売上は減っているので、業界全体はゼロサムとなっており、業界の中で、他が他を影響し合う状況にあると言えます。

企業単位の売上を見ると、旧来型の百貨店ブランドを主力にしている企業は軒並み前年割れしており、セレクト系は微増傾向です。

データの資産化と収益化の遅れ

アパレル業界は、データの資産化ができていない企業が多いと感じています。

データの資産化と収益化について企業を評価する際、「オンラインとオフラインの売上比率」と「顧客基盤と非顧客基盤の割合」を軸に考えていくのが大事だと思っています。

顧客基盤:自社ECサイトで商品を購入しており、顧客データを把握できている
非顧客基盤:他社ECサイトで商品を購入しており、顧客データが取れていない

現在、オンラインの非顧客基盤が拡大している企業が多く、顧客と直接コミュニケーションが取れていません。ECの売上状況に左右されがちで安定せず、危険な状況だと自覚しなければなりません。反面、顧客基盤を持っていれば将来も継続的に売り上げが見込めるため、安定した顧客基盤を獲得したいと多くの企業は考えています。

さらに顧客の中には、

①実店舗(オフライン)専門で買い物をする顧客
②EC(オンライン)専門で買い物をする顧客
③実店舗(オフライン)とEC(オンライン)両方を使う、オムニチャネル的購入をする顧客

の3つに分けられます。③のオムニチャネル的顧客の購入金額の伸びが著しく、売上に寄与している状況です。よって、③の顧客に向けた、両方のチャネルで購入できる環境を用意することが、売上増につながります。

オムニチャネル施策は重要だが、顧客基盤が拡大できる構造になっているかが重要です。

会員数が増えることも重要ではあるが、データが収集蓄積できていて、活用できる構造になっているかを、課題として認識しなければならないと感じています。

画像: データの資産化と収益化の遅れ

アパレル業界で起こっている「需要と供給」の不一致

アパレル業界では、昔から需要と供給の不一致が頻発しています。

・「需要<供給」ケース
需要がだぶつき、値引きが起こって利益率が悪化するケース。値引きがある前提の売価設定になり、すぐに値引きを繰り返すため、顧客は定価で買うことに不信感を感じる

・「需要>供給」ケース
売れ筋商品の欠品が起こる状況で、顧客の買いたいタイミングで商品が用意されていないケース。機会損失が起こり、売り逃しとなる

これらを改善するためには、

「企画→調達→生産→物流→販売」

の流れの中で、生産をスムーズに行い、売れ筋商品の追加生産を早期に行うことで、需要に供給を追いつかせる仕組みが必要です。また、在庫一元管理による、機会損失の低減が必要となります。

KASHIYAMA the Smart Tailorに見る、アパレル企業成功の道筋

オンワード樫山はアパレルの中では、百貨店向けブランドを中心に扱う、従来型サービスモデルの企業です。

KASHIYAMA the Smart Tailorはオーダーメイドの新しい仕組みになっており、来店・出張で採寸、生地を選択するだけで、1週間で納品されるというもの。

こちらはオンデマンド生産なので、需要を元に生産を行っており、無駄がなく、需要と供給の不一致が起こりません。

画像1: KASHIYAMA the Smart Tailorに見る、アパレル企業成功の道筋

採寸予約(オンライン)来店・出張採寸(オフライン)店舗注文・オンライン注文(オムニチャネル)→お届け

オンライン・オフラインをミックスした、オムニチャネルのビジネスモデルとなっています。2着目はデータを元に採寸無しでスーツをあつらえることができ、顧客の面倒を解消できます。企業もサイズデータを含めた顧客データを収集・蓄積が可能な構造になっています。

オンワード樫山のような実店舗(オフライン)を主力にした企業が、オンラインの仕組みも取り入れて、オムニチャネルでビジネスを展開しています。アパレル業界のデジタルトランスフォーメーションの一例として、画期的なビジネスモデルであり、可能性を感じています。

画像2: KASHIYAMA the Smart Tailorに見る、アパレル企業成功の道筋

村田氏の講演の後は、参加者によるディスカッションが行われました。

アパレル業界の問題

フェロー)アパレルに関してはSKU(Stock Keeping Unitの略。受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位のこと)数が多いため、どうしても在庫ロスが多くなります。だからこそ値引きしてクーポン乱発をしても大丈夫、みたいな雰囲気が業界にはあるように思います。しかし、度が過ぎると、顧客はそもそもの定価が信じられなくなるので、危険だと思っています

村田)アパレルは適正価格が分かりにくいので、いい加減な価格設定になっていることが多いように思います。初めから3割引きする価格を織り込んで定価の価格設定をする、ということがまかり通っている世界です。適正価格についての顧客とのギャップは、埋めていかなければならないと思っています。

ブランディングとファン化施策は?

藤元)サブスクリプションを採用して、消費者を囲い込むモデルが出てくる可能性もあるでしょうか?

村田)ファン化の延長で、サブスクリプションモデルはありだと思います。

今後、ECに関してはオンラインの巨大企業が、圧倒的なシェアと顧客基盤で牛耳っていくことが予想されます。それに対抗するために、ECサイトを頼らなくても、それぞれの企業が価値を提供できるようにならないといけません。顧客のインサイトを知る、顧客基盤を作るなど、ファン化施策を徹底しないと、巨大企業には勝てなくなるでしょう。

藤元)昔は雑誌があって、知らないブランドが載っていると「あ、いいな」と発見することが多かったですが、デジタル化してそういう機会が減ってきていますか。

村田)世の中で言われているほど、SNS(特にInstagram)は影響がないのかな、という認識です。情報チャネルが多様化していますが、それが購買行動まで直結しているかどうかは、過去のデータをみても、そこまで影響はないと感じています。

藤元)紙のほうが、わかりやすさという面では上位にありますね。今は、「ブランド」をオンラインで発信・提案できるメディアが求められている気がします。

村田)ベイクルーズは30代~40代がターゲットなのですが、意外と雑誌を見ている人が多いです。ただ、割合として雑誌を読む層は減っていますから、オンラインでブランド発信できるメディアは、アパレル企業は欲しいでしょうね。

アパレル業界は斜陽なのか?

フェロー)会社の全体最適の話だが、顧客データの統合、企画、サプライチェーンの見直しなど、実際にこれらのことがクリアできている会社は少ないですよね。

村田)そういうことができる人材が、アパレルには来ないですね。残念ながら。産業としてアパレルは斜陽だと思われています。未来を感じさせる要素がないので、なかなか人材が集まらないのも問題だと感じています。

藤元)アパレルも含めて小売りは、オワコンじゃなくて最先端だということを発信していくのも、Next Retail Labの使命だと思っています。なにかメッセージをいただけますか?

村田)アパレル業界は、逆にチャンスにあふれる業界だと思っています。既存のやり方でなく、新しいやり方で生き残らなければならないので、最も変革が進む業界ですから。ジャイアント企業が仕切る業界でもないので、一つの会社でもできることはたくさんありますし、面白い業界だと思います。

実店舗の役割はどう変わるか?

参加者)今後の店舗の役割がどうなっていくのか、気になりました。見込み生産で作る必要が無くなることと、店舗で買うときは店頭在庫から買う必要もなくなり、EC在庫から自宅に商品が届くスキームができると思うので。そうなると、店舗で在庫を抱える必要がなくなりますよね。店舗の役割は何になるでしょうか?

村田)店舗の役割はあると思っています。その場ですぐに持って帰りたい、という需要もまだまだ大きいからです。しかし、店舗を販売チャネルとして成り立たせるためには、家賃の負荷や人件費を考えると、今の店舗の役割ではないところへ、シフトしていかないければならないでしょう。

店舗単位で利益を上げる、というのは今後厳しいでしょう。リアル店舗でなく、ECで稼ぐようなモデルを確立する必要があります。

参加者)店舗で実際に商品を見に行ったけど買わない、みたいなケースはよくあります。しかし、リアルで商品に触れてもらう場として、店舗は残るのではないかなと思っています。

参加者)店舗の役割が無くならない、という意見に賛同します。店舗はそのブランドが好きな人が集まってわいわい言い合う、オフ会のような場になればいいかなと思っています。アイテムについて相談できる人が店舗にいたり、よく顔を知った人と関係がもてるなど、人と人がつながる場として、残って欲しいなと思っています。

村田)店舗の役割、店舗スタッフの役割も、お客様とのつながり作りが重要ですよね。ですが、スタッフの評価は、個人売上が評価基準だったり、とてもちぐはぐですね。

お客様にブランド体験をしてもらって、満足してもらえた結果が評価される仕組みが必要です。評価がスコア化されて、店舗スタッフにフィーとして還元されると良いのではないかと思っています。そこはアパレル業界が変わらなければいけない課題と言えますね。


村田氏はアパレル企業の課題と環境を、オンライン・オフライン軸や顧客基盤・非顧客基盤軸など、様々な軸からポジショニングマップを作成した上で分析を行っていました。参加者にもわかりやすく、納得感の高いものだったように感じます。

アパレル業界が斜陽なのか、というテーマについては、村田氏の「アパレル業界こそやれることがたくさんある」という熱いメッセージを聞くことができました。このメッセージはアパレル業界に従事する人々に、ぜひ伝えたい内容でした。

店舗の役割と店舗スタッフの評価も、今までの売上至上主義から変化ができれば、顧客も店舗スタッフもお互い幸せになれるのではないかと思います。

Next Retail Labでは、デジタル化が進む中での、アナログの大切さを教えられる機会が多いように感じます。

変革しなければいけない業界にあっても、アナログの大切さについて意識をしながら、方策を練っていく必要があるのではないでしょうか。

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