2018年4月26日、D4DRが企画・運営に関わる「Next Retail Lab」フォーラムの第13回が開催されました。

今回の登壇者は、今年で創業200年になる老舗「榮太樓總本鋪」の細田治会長。
1818年と2018年の人々の価値観に大きな隔たりがある中で、次の時代を見据えて何を守るのか、変えていくのか。老舗の価値観とお菓子作りにおいて大事にしていること、ニーバーの祈りからヒントを得た、経営哲学を教えていただきました。

細田治:1967年日本勧業銀行入行。1971年、榮太樓總本鋪入社。1995年、同社代表取締役社長に就任。2008年、同社会長に就任、現在に至る。2010年、細田協佑社(榮太樓總本鋪グループホールディング会社)代表取締役社長に就任、現在に至る。

画像: 第13回 Next Retail Labフォーラム『和菓子を明日につなぐ ~ニーバーの祈りに学ぶ~』榮太樓總本鋪 会長・細田治氏

老舗の危機感

世界には200年の歴史を持つ会社が約5600社あり、その6割が日本にあります。また、1000年以上は12社あり、そのうち9社が日本の会社だそうです。

その理由として細田会長は、日本は同族経営で理念がぶれないことを挙げていました。つまりは、価値観の伝承が老舗では行われていると言えます。

しかし、これからの若い世代は単なる伝統文化だけに納得しないでしょう。

細田会長は、老舗の価値観の伝承が途絶えることに危機を感じており、そのために何をすべきかを常に考えているそうです。

お菓子の背景ストーリーを伝える難しさ

榮太樓總本鋪の代表商品に大福がありますが、コンビニで販売されている和菓子は1/3の価格で売られています。しかし、榮太樓總本鋪の大福が3倍おいしいということではない、と細田会長は話します。

それでも榮太樓總本鋪の大福を手に取ってもらうためには、お菓子の背景にあるストーリー、いわれをお客様に伝えることが重要になってくるのです。

画像: www.eitaro.com
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例えば「柏餅」。柏は新芽が出ないと古い葉が落ちないので、「跡継ぎが途絶えない」「子孫繁栄」に結びつき、端午の節供の縁起の良い食べ物とされるようになりました。
このようなストーリーを知ることで、それを意識して、楽しく食べることができます。この楽しさが「おいしさ」につながるのです。
しかし昨今、そのストーリーの価値が伝わらなくなってきた難しさに直面しているそうです。

ニーバーの祈り

「神よ、
変えられないことを静かに受容する慎みを、
変えるべきことを変えていく勇気を、
そしてこの二つを見分ける知恵を、
私たちにお与えください」
(Reinhold Niebuhr 1892-1971)

出典:http://www.edit.ne.jp/~ham/yomoyama/niebuhr.html


細田会長は青山学院在学中に出合ったこの言葉を念頭に置いて、経営をしているといいます。
「老舗として作り続けるべきものは作り続ける。しかし、それが今の世代に全く評価されなくなったら、勇気をもって変える」

新しい世代に向けた商品作り「からだにえいたろう」「あめやえいたろう」

勇気をもった変革の取り組み例として、「からだにえいたろう」「あめやえいたろう」の紹介がされました。

「からだにえいたろう」はシニアに寄り添った低糖質の商品です。ネーミングはこれでよいのかと迷う気持ちはあったものの、社員の「面白いから笑ってもらえて、注目される」との言葉に動かされ、販売を決断をしたそうです。

画像: www.karadanieitaro.jp
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「あめやえいたろう」は若い世代への取り組みとしてスタートしたが、女性商品開発チームと意見が合わず、細田会長は一度発売を反対しました。商品カタログにすでに載ってしまったということでしぶしぶ販売をしたところ、予想を超える大ヒットになりました。当初は若い男性のホワイトデー需要を想定していたが、若い女性を中心に火が付いて大ヒット。

その経験から、自分には女性の求めているものが何かわかっていないことに気づき、反対したことを謝罪し、商品開発を任せることにしたのです。

画像: www.ameyaeitaro.jp
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現在は女性役員も2名誕生し、若い人、特に女性の気持ちを汲み取る体制に変更しました。

社是「味は親切にあり」に込められた意味

細田会長は「味は親切にあり」の意図するところを、次のように話してくれました。

「次の工程への優しい気遣いを大事にすることが、

最終的にお客様に味として伝わるのではないかと信じています」

工場でお菓子を製造する際に、常に次の工程を考える気遣いが、味につながる「親切」なのだという。

画像1: 社是「味は親切にあり」に込められた意味

参加者は皆、最後まで集中して聴講し、充実の1時間となりました。

講演後はフェローからの質問や討論、会場の参加者からも多く質問が飛び交いました。

榮太樓総本舗と他社のコラボレーションでは「獺祭」の例、インバウンドの考え方、小豆や黒糖が高騰する中どのように原料を確保しているか、経営の財務的なものなど、質問・討論が多岐に及んでいました。

WEBの仕事をしているフェローからは、ITは歴史が浅く、商品がストーリーになることがないので、社員が商品に誇りを持つためにどう伝えたらいいか、という質問がありました。

細田会長は「伝えることが自分の役目」と認識していて、実例などを交えて、とにかく話しかける努力をしているそうです。そして自分の代わりに伝えてくれる世代を育てることを意識していると答えていました。

別のフェローは、
『「人の気持ち」「思いやり」は抽象的に感じるが、時代が変わっても商品を手に取る「人間」は情緒的。商品を選ぶときの気持ちや時代が変わっても、変えてはいけないことは情緒的なものだと気づかされました。理屈(機能やスペック)だけで商品を選んでもらうことが難しい時代になってきているからこそ、そういう事柄を解き明かし、変えるべくを変え、継承すべきことはつないでいくことが、ものづくりや商いの根っこなのではないかと、再認識しました。』
と感慨深げに述べていました。

そして、他のフェローや会場の参加者からも、この意見に同意するようにうなずく様子が見られました。

女性フェローからは、あめやえいたろうのエピソードに対して、自分が間違えていたことを認められる経営者は素晴らしく、こういうことが行われて初めて日本の企業が変わってくるのだと思う、と感動の声もあがりました。

画像2: 社是「味は親切にあり」に込められた意味

最後に細田会長から、リップグロスのような容器に入った あめやえいたろう「みつ(苺、あまおう)」が配られると、会場で「おいしい」「かわいい」と賛美の声があがりました。

榮太樓總本鋪が培ってきたお菓子作りへの強い信念、思いやり、優しさの詰まった味で、心からおいしいと感じた瞬間でした。

今回、細田会長のお話を聞き、日本でなぜ老舗が多く存在しているのか分かった気がします。

・日本人が長年大切にしてきたもの、考えを伝承していくこと。

・時代の変化に合わせ、多様化する価値観に寄り添うこと。

・製品に「親切」を込めるというアナログで情緒的な考え方を大切にし、顧客にアプローチをすること。

スマートフォンの普及などにより、急速にデジタル化、IoT化する現代において、つながりの希薄化を懸念する声も聞かれますが、ビジネスは常に顧客主体であるべきです。あくまでデジタルは、アナログのリアルなつながりを助ける「ツール」であることを、忘れてはいけないのだと感じた夜でした。

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