「働き方改革」という言葉をよく耳にするようになってから久しいですが、どのように“改革”するのかについては個人で異なり、様々な答えが存在しているように思います。
今回は合同会社くらラボ 鞍掛靖さんをお迎えし、鞍掛さんのこれまでの経験、これからの働き方、鞍掛さんのこれからの展望についてお話を聞きました。鞍掛さんは、デジタルマーケティング、CRMのスペシャリストです。
(聞き手:D4DR代表取締役 藤元健太郎)

ヤマハ株式会社にて、ネットビジネスを立ち上げるまで

藤元:まずは鞍掛さんのこれまでのご経歴、自己紹介をお願いします。

鞍掛:合同会社くらラボの鞍掛です。会社を立ち上げたのが去年の10月で、その前はヤマハ株式会社に36年在籍していました。
ヤマハではデジタルマーケティング、広報、CRMを統括していました。
入社時は電子楽器のプログラミングを担当していましたが、技術だけでなく、営業やメディアもやっていきたいと感じていたことがきっかけで、デジタルマーケティングを担当することになりました。

藤元:ヤマハを選んだ理由は何かありますか?

鞍掛:学生時代にバンドを組んでいたこともあり、プロが使う楽器を作りたいという夢がありました。配属先がコンシューマー向けで最初はがっかりしたが、やってみると面白く、楽しい仕事をさせていただきました。1992年新規事業プロジェクトで、「音楽教室に代わるサービスを、グローバル視点で考える」という課題を与えられました。音楽コミュニティづくり、音楽通信教育、子供用楽器の提案をしましたが、時期尚早でした。
2000年に、ネットビジネスの部署が新規で立ち上がり、社内公募でチームに入りました。そこで音楽コミュニティをネット上に作ったり、ネットでのレッスンも実現しました。

藤元:音楽をやっていた人からすると、ヤマハはブランドの強い会社で、プロからも支持されています。会社のブランド力を、実感できたことはありますか?

鞍掛:プログラミングを担当していたときは、新しい技術がつぎつぎ出てきた時代でした。プロダクトアウトをすることで特に意識をしなくてもファンがついていて、モノが売れる時代でした。技術力、ブランド力を実感しました。しかし、競合との技術の差がなくなると、顧客を意識してマーケットインでスペックを考えていくようになりました。顧客視点でブランドを意識しました。

ECサイトで苦戦した理由

藤元:楽器店という販売ルートを持って、その先にお客さんがいるというのは、多くの日本企業と同じだと思います。その中で、エンドのお客さんを意識するよりも、楽器店をより意識することがあったのではないですか?

鞍掛:製品づくりはエンドのお客さんを意識しますが、メーカー営業は卸を中心にまわっているので、営業からすると顧客中心は望まれていません。販売店との関係が重要なのです。そのため、ネットのビジネスが立ち上がったときに、ECサイトの提案を営業から反対されました。結局ECサイトでは定価でしか販売できないということがありました。

藤元:どの日本企業もECサイトがうまくいかずに苦戦していましたね。

変えられたこと、変えられなかったこと

藤元:色々な挑戦をされて、ここは変えられた、逆に変えられなかったことなど、何か象徴的なできごとはありましたか?

鞍掛:変えられたことは、お客さんとのコミュニティを作れたこと。ちょうどmixiが流行っていた時だったので、似たようなコミュニティサイトを作りました。幸いアクセスも増え、社内でも可能性がありそうだという風潮に変えられました。

画像: 鞍掛靖:1981年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。電子楽器のソフトウェア開発、音楽アプリケーションソフトウェアの商品企画などを経て、2000年からWebを中心としたメディア総合戦略、全社Web戦略を担当。2013年4月より、株式会社ヤマハミュージックジャパンで、広報、Webマーケティング、CRM戦略を担当。2017年10月合同会社くらラボを創業。

鞍掛靖:1981年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。電子楽器のソフトウェア開発、音楽アプリケーションソフトウェアの商品企画などを経て、2000年からWebを中心としたメディア総合戦略、全社Web戦略を担当。2013年4月より、株式会社ヤマハミュージックジャパンで、広報、Webマーケティング、CRM戦略を担当。2017年10月合同会社くらラボを創業。

しかし最終的にコミュニティを重視しすぎて、マーケティングの仕組みが入っていなかった。そもそも私自身がマーケティングを知らなかったので、コミュニティサイトに費用がかかる割には、マネタイズができず、難しさを感じました。

藤元:多くの企業の課題が凝縮されていて、わかりやすいケースです。しかし結果的に社員に認められたコミュニティとなったことは、素晴らしいですね。社内を巻き込んで説得ができた、ということだと思います。その際に工夫したことを教えていただけますか?

鞍掛:成果を数字で見せることは大事だと思います。イントラネットの他、プレスリリースを出す、日経などに取材をしてもらって、外から社員に周知する工夫をしました。

藤元:それは良い手法だと思います。社内ニュースは意外と読まれないですからね。
ところで、その時のトップはどのように関与していたのですか?

鞍掛:新規事業開発は予算内で好きに新しいことをやっていいということで、やりやすかったです。しかしその後トップが変わり、厳しくなった。その時に、広報部がコーポレートのHPをデータベース化したいということで、一緒にグローバル統合をすることになりました。
3年ほどでグローバル統合という計画だったが、結局HPのグローバル化に7年の歳月がかかりました。

日本企業共通の課題

画像: 藤元 健太郎:1991年電気通信大学情報数理工学科卒業後、野村総合研究所入社。1999年5月、株式会社フロントライン・ドット・ジェーピー代表取締役就任。 2002年6月、D4DR(ディー・フォー・ディー・アール)株式会社代表取締役に就任。日経MJ「奔流eビジネス」連載中。

藤元 健太郎:1991年電気通信大学情報数理工学科卒業後、野村総合研究所入社。1999年5月、株式会社フロントライン・ドット・ジェーピー代表取締役就任。 2002年6月、D4DR(ディー・フォー・ディー・アール)株式会社代表取締役に就任。日経MJ「奔流eビジネス」連載中。

藤元:最後まで乗り越えられなかったことはありますか?

鞍掛:CRMを最後に作りましたが、統合が思うようにできなかった。費用の問題や、関与するところの横ぐしが刺さらないこと、あとはトップに理解させることが難しかったです。

藤元:「横ぐし」と「トップの理解」これは共通の課題、キーワードですね。
これまでの経験を踏まえ、客観的に日本の企業を見て、何かサジェスチョンはありますか?

鞍掛:特に大企業は既成概念から抜け出せていないように感じます。組織形態や社内ルールでガチガチに固められている点が、今の社会に合わず、阻害要因になっていることが多いと感じます。

藤元:よくコンサル担当が、外から寄り添って理想論を語ると「そうは言ってもできません」となる。事業会社に長くいた鞍掛さんからすると、理想論は無理だとしても「せめてこれくらいはいける」という感覚を持っていると思います。それでもできないのは、どういった障害があると考えていますか?

鞍掛:一つは見極めをどうやってするか、というところだと思います。
CRM担当時に、最初から完璧を目指すのではなく、まずは最低限のサービスでスタートして、順次追加修正すればよい、という考えがありました。しかし、それを現場に理解させることは大変で、対応する現場の不安の払拭に、苦労しました。

藤元:日本のメーカーの共通認識として、モノづくりの品質にこだわっていて、とにかく品質の良い物をお客さんに届けなくてはいけない、というのが存在していますね。そしてモノだけでなく、サービスも同じく完璧でなければ許されないという考えがあります。
モノは良いけど、サービスは軽くても良いということは無いですよね。

鞍掛:残念ながら、無いですね。

サービス思考へ移行の兆し

鞍掛:しかし最近では、ハードウェアもプログラムでアップグレードができるようになってきているので、まずは出して、バージョンアップで修正するという仕組みになってきています。

藤元:サービス思考になってきていて、そこは良い兆しですね。そういった「とりあえずやってみよう」というのは、どうしたらできるようになりますか?

鞍掛:それは作る方も、使う方もそうですが、経験を積んでいくことでそれに慣れていくのだと思います。クレームを恐れていたら、前に進まないですよね。
アップルやフェイスブックも、最初はひどくて、2か月すると改善されてくる。お客さんもそういう経験をすると変わっていくし、品質以上の価値を提供することがポイントだと思う。
メーカーも製品を出して終わり、となりがちだが、モノも含めたサービスの価値を提供していくべきだと考えます。

藤元:そういう意味では、「モノからコトへ」という流れをとらえるのはマストですね。

受け入れられない人へどうアプローチすべきか

藤元:鞍掛さんはリリカルに物事を考えていますが、同年代の管理職はそうではないことが多いでしょう。世代的な問題があると感じますか?

鞍掛:それは世代というより、人によるのかなと思います。
受け入れることに慣れている人と慣れていない人がいる、ということなのではと思います。受け入れられない人がマネジメント層にいると厳しいですよね。
マネジメント層もリスクが見えないとGOは出せませんが、そういう人は会社でポジティブに行動できない傾向がありますね。

藤元:どう打破できるでしょうか?

鞍掛:やはりマネジメント層を安心させる数字、成果を見せることでしょうか。

働き方の変化

藤元:会社から外に出てみて、今の日本企業にいい兆しは見えますか?

鞍掛:いい兆しとしては「新しいことをしないとやばいよね」という機運はあると思う。大手企業等がスタートアップに支援するのは、良い例だと思います。
ただ、なかなか外に出ていけない人がまだ多い。そういう人が楽に出られるようなコミュニティがあればいいと感じます。
50代60代で定年がある、今の雇用延長システムは良くないと思います。60代になってもまだまだ元気な気がするが、そこで年齢を意識するようになったことで、調子が悪くなった気がしました。
急にモチベーションが落ちるので、そうならないような何かを考えなくてはいけないです。

藤元:それでいうと、今の副業・兼業はよい傾向ですよね。そういう機会を、ある程度の年齢になったら試していかなければならないですよね。

鞍掛:そういうときにコミュニティがないと。独立すると一人で簡単に営業ができるわけではないし、だからこそコミュニティづくりが必要なのかなと。

藤元:独立されて、D4DRと仕事をするという、新しい働き方の枠組みはどうですか?

鞍掛:日々勉強です。D4DRの案件に入れるのはありがたいですし、若いメンバーとも働けるので刺激になる。一人ではどうしてもできないこともあるので、心強いし助かっています。

外から見ることで得た気づき

鞍掛:事業会社にいると固定的で、視野が広がっていかないと思う。常にお客さん中心でできるわけでなく、どうしても販売店や営業担当の顔が見えてきてしまうことで、自分の考えを広げるよりも、どうやってうまく収めるかという考えになってしまいがち。
外からみることで、それがおかしいと気づいたり、おかしいと言えることはありますね。
あとはあまりロジカルに考える、ということをしていなかったように思います。

藤元:外にでて気づくことがあると、中にいた経験も踏まえてコンサルできる貴重な立場だと思うが、中の人に対して「これは経験しておいた方がいいよ」ということはありますか?

鞍掛:一番は中だけでなく、外を見ること。コミュニティに加わるなど。
あとは人にもよるけど勉強する時間が少ない、本を読まないという問題があります。もしかしたら読む時間がないこともあると思いますけれど。
もう一つ、メールが良くないですね。CCでトラブルに巻き込まれたり、メールに忙殺されて、ずっと座っている人もいますよね。
メールでトラブルが起こって相談されることがよくありました。確認のために相手に電話したり、直接会って聞いたりすると、実際はたいした問題ではなかったりする。そういうことが何回もあったので、会ってコミュニケーションをとることがいかに大事か、実感しました。

定年前の人たちへメッセージ

藤元:早い段階でコミュニティに入ったり、兼業をするのは、定年が近くなる前にやっておくほうがいいですね。そういう意味では、D4DRは一緒に仕事をするためのプラットフォームを提供していますが、定年前の人たちに何かメッセージはありますか?

鞍掛:自分の強みをうまく見つけて、それを生かすような発信をセルフでしなくてはなりません。足りないところを補うD4DRのようなプラットフォームに加わるのが、自分の特技や資質を生かすという意味でも、重要だと思います。
今思いましたが、マネージャーの仕事は「人の管理」という側面がある。今はそれが無くなったので、本当に楽です。

藤元:中間管理職がいかにストレスがたまるか、ということですよね。

鞍掛:会社はやはり人の管理が大変。課長職は社員の世話をするところに注力をして、それで全体が俯瞰できるようになったところで、自分の強みを出して、それを外に向けていくように、変化することが重要だと思う。
働き方改革が叫ばれているが、頭を使う仕事の人は時間管理労働をやめた方がいいと思います。

藤元:どうしても、工業化社会の発想を抜け切れていないですよね。

鞍掛:これからはいろいろな雇用形態が出てくるでしょう。副業も仕事のタスクでマルチタスクとしてコミットするような形とか。その方が人間も成長できるし、社会にも二重の価値を提供できる。

藤元:我々もそういう人を受け入れて、価値を作っていくことを目指しています。

これからやっていきたいこと

藤元:最後に、これからやってみたいプロジェクトやこういうことを企業に提案したいなど、要望はありますか?

鞍掛:ずっとコミュニティに関わる仕事をやってきたので、ファンベースのコミュニティ作りをお手伝いしたいですね。お金はかかるし、成果が出るまで長いですが、成功に導きたいです。
あと、企業の中で頑張っている人を引き上げるような仕事をしたいと思う。その人の力になって、その人の本当にやりたいことを引き出して、実現できるようなプロジェクトはやりがいがありそうです。
社内で否定があって悩んでいるとき、自分の知見を生かして「こういう風にするといいよ」とアドバイスができる存在になれたらと思います。

藤元:コーチングの要素も含まれたプロジェクト、ということですね。大企業にいて悩んだことのある鞍掛さんならでは、の視点ですね。
本日はどうもありがとうございました。

画像: これからやっていきたいこと

最後に

マーケティング、CRMの話よりも、これからの働き方、鞍掛さんの熱意が伝わってくる時間であったように思います。
事業会社に長く在籍した経験を生かし、適切で親切なアドバイスをしたいという鞍掛さんの情熱と行動力は、これからの「働き方改革」の一つなのではないだろうかと感じました。
「人生100年時代」と言われ、一億総活躍社会実現の為、「働き方改革」が声高に叫ばれている現在。組織に捉われることなく、個人が主体的に行動し、輝きを放つことの大切さと難しさ、多様さに期待と困惑を抱くことも多いです。だからこそ、それを具体にしている鞍掛さんのチャレンジに、これからも注目していきたいです。

※今回はSlorn加盟店、芝公園の「FAITH COFFEE COMPANY」をお借りしました。
http://faith-coffee.com/

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