選ばれる人材とは、つまりプロフェッショナルとしての力を持っていることに尽きる。
大企業に属していようと、中小企業であろうと、それぞれの現場で一人ひとりが「就社」ではなくプロフェッショナルとして「就職」していることが大切だ。

画像: 米倉誠一郎:キャリア?その前にプロフェッショナリズムを磨くこと(3)

誰もが社長、誰もが事務次官という幻想

ひとつには外資系のコンサルタント会社や投資銀行などに行きたいというタイプ。二つ目が、いわゆる日系大企業に行きたいというタイプ。あとは、ベンチャー企業就職や自分で起業したいという3タイプに分けられるかもしれません。もちろん、公務員やNPOという選択もあります。このチョイスの中では、やはり日系大企業に行きたいという学生が多いですね。

つまりローリスク、ミドルリターンという選択肢です。日系大企業は外資系企業への就職や自らの起業に比べると決してハイリターンとはいかないけれど、それなりにリターンもあるし、強制的な退社もほとんどない。しかも、大学の名前や部活の活躍で採ってくれる。ある意味で小賢しいが、まあ厳しい受験を勝ち抜いていい大学に入ったのだから、そこへ行かない手はない。そういう選択をする学生が多いというのも仕方がないのかもしれません。

一方悪いことに、企業の側も大学の名前で学生を採る慣習がある。大学で何を学んだかではなく、大学の名前で人材を採るということは、下手をすると高校生当時の実力で人を採るということなのです。人生のピークが高校3年生の人間を集めて、後は楽して暮らそうということでは大企業は衰退します。

また、人事考課やキャリアの設定が曖昧だったのも大企業の活力を弱めたと思います。かつての日本の組織、とりわけ役所がそうでしたが、極端な言い方をすれば誰もが社長に、あるいは事務次官になれるという幻想を抱かせて走らせてきた。ある意味、安い給料でも、長時間の残業でも、高度経済成長下の幻想で引っ張ってこれたわけです。

僕の大学の同期も、「俺は将来、社長になるぞ」と言って卒業しました。その方法はと聞くと、「まず現場に出る。それから海外子会社へ出る。それで人事部に所属して、それから専務の娘を嫁に貰う(笑)。で、最後は社長室にいって社長だ」などとうそぶいていました。しかし、これをキャリア形成とは言わないでしょう(笑)。ところが、昔はそういうのが社長への道だと皆、思っていたわけです。企業に入ってしまえば全ては企業がお膳立てをしてくれるはずだった。

誰も経理のプロ、マーケティングのプロ、生産管理のプロになるといった発想はなかった。この就職ではなく就社という感覚がいまだに学生の間にありますね。

― 一方、今、外資系企業に入ってキャリアを積もうという学生は、短期間に集中的にハードな環境で困難な課題をこなすという経験をします。プロフェッショナルになるために必要な経験ができます。

マッキンゼーなどの外資系コンサルに行きたいという学生の場合は、むしろそこに挑戦することを目的にしています。凝縮された時間の中で多様な産業、多様な業務に挑戦することができる。そこを乗り越えると、できないことはないと思える自信がつくわけです。短い間に地獄の特訓みたいな機会を与えられる。その点で厳しい外資系は面白い選択肢ですね。しかし、入るのも難しいし、力が無ければ途中下車もあり得る。ある意味ハイリスク・ハイリターンですね。

選ばれるプロフェッショナルになるには

― 日本企業のローテーションの弊害については、どう思われますか。異動してきた情報システム部の新しい部長に「システムの事が分からないのでよろしく」と挨拶されて、ベンダーの側は「しめしめ…」とることとや、宣伝部長が代理店に丸め込まれるといったことも起きていました。最近は、IT系のコンサルティングをしていた人が中途入社して、自分で適切に仕様の評価をして、見積もりを一桁下げたり、最終的な責任は自分が負うからと決断できる人も増えたりしていますが。

その通りですね。これまでの日本企業は、ローテーションでゼネラルマネジャーを育成してきましたが、プロフェッショナルがいないのが問題。データアナリストがいないところでマーケティングをしたり、新しい技術動向も分からずにIT部門を担当したりする。会社の色々な部署を知っているゼネラルマネジャーの存在は大事ですが、やはり一本筋の入ったプロフェッショナリズムが必要です。その意味で、T型人材育成の必要性が叫ばれているのです。

ただ、大企業の良い点は、体力があるから組織の中でT型人材の育成ができること。事実、日本で人材を最も蓄積しているのは大企業ですから、そうした人材を遊ばせないで、多重に活用して強いチームを作って欲しいと思います。一つのことに秀でたプロフェッショナル・マネーシャーはゼネラルなことも出来る。そうして強い個人が集まった強いチームを作って欲しい。また、緊張感を高めるために、マネジメントのプロを外から採って来る手もある。

サッカーでも、プロフェッショナルの監督のマーケットがあり、プロフェッショナルな選手のマーケットもあり、それを回すバランスを考えるチーム経営のプロ集団もある。プロフェッショナルの集まりでできあがっているのです。そのうえで、顧客が求めている最高のサービスとパフォーマンスを提供するという世界。経営も同じだと思います。

― プロフェッショナル・マネージャーを目指すのも一つの生き方ですね。

そうですね。しかし、はじめは各分野でのプロ、すなわち商品開発、素材関係、あるいはマーケティング、経理、人事などのプロフェッショナルを目指すことが大事だと思います。一つの分野で深い知識と経験を積んだプロは、ゼネラルなマネジメントもできる可能性があるが、その逆は難しい。一つの専門分野で「選ばれる人間」としての力を培い、知識と経験を蓄積していこうという考え方をすることが今後大切だと思います。就社ではなく就職になれば、たとえ企業が潰れてしまっても、自分にプロフェッショナルの力があれば、新しいところへ動いていける。そういう人材が増えていって、もう少し流動性が高まってくるといいですね。

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競争力のある人材、すなわち「選ばれる人材」として、自らの経験を磨き、その経験をもっとも大きく発揮させてくれる場所で働く。企業がもしその場を提供できないならば、できる企業に有能な人材は移動する。そうなると企業と働く人との間に緊張感が生まれる。こう書くと何か殺伐とした企業像が目に浮かぶかもしれないが、僕にはプロのミュージシャンたちが集う愉快なスタジオのような風景が目に浮かぶ。

一度しかない人生、何よりプロフェッショナルとして自らを磨き続ける意識と楽しく生きる気持ちが重要だ。

(インタビュアー 藤元健太郎、執筆 小林利恵子)

画像: 選ばれるプロフェッショナルになるには

プロフィール

米倉誠一郎(よねくら・せいいちろう) 一橋大学 イノベーション研究センター 教授

1953年、東京生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(PhD.)。95年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。2012年〜2014年、プレトリア大学GIBS日本研究センター所長を兼務。また、Japan- Somaliland Ope University 学長のほか、六本木アカデミーヒルズの「日本元気塾」塾長を務める。『創発的破壊未来をつくるイノベーション』『脱カリスマ時代のリーダー論』『経営革命の構造』『2枚目の名刺 未来を変える働き方』など多数の著書がある。

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