佐藤達郎 (多摩美術大学 教授)

2002年に初めてカンヌライオンズを訪れて以来、12回目となる今年の参加。40,000点を超える応募作と13,000人を超える参加者が100か国以上から集まりました。

僕はいつもここに、広告界のイマとコレカラのヒントを探しにやって来ます。激変する広告界の息吹をしっかりと感じることのできる、稀有な場所だからです。そんなカンヌライオンズ2015の速報を、帰国途上のシャルル・ドゴール空港(パリ)からお送りします。

画像: 佐藤達郎特別レポート:カンヌライオンズ、それは、広告界の激変を映す「鏡」

カンヌライオンズの今って、いったい?

2011年、旧・カンヌ国際広告祭は、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルへと名称を変更し、短くカンヌライオンズが公式のニックネームとなりました。

「広告」と一口に言っても、今や一筋縄では行きません。一昔前であれば、テレビCMか新聞広告かポスター辺りを指すと考えておけば、そんなに大きな間違いはなかったと思います。しかし、ここ10年ほどの間に、様相は一変しました。

主な理由は、インターネットとソーシャルメディアの登場により、コンシューマーの情報接触や購買行動が劇的に変化したことです。それに伴って、広告界も激変しています。30歳の時に優秀なアドマンだったのにこの激変について行けず、「浦島太郎」状態の人も、少なからず存在します。

私が審査員を務めた2004年のカンヌライオンズは、全体で7部門だったのですが、2015年現在、17部門に増えています。「モバイル部門」とか「PR部門」などが増えたわけですが、カンヌライオンズにさほど詳しくない人が見ると、何が何やらよく分からない、といった感想も耳にします。

この点についてテリー・サベージ会長に直接尋ねたことが何度かあるのですが、答えはいつも同じ。それは、「現実のビジネスの世界がそうなってきているからだ。カンヌライオンズは、広告ビジネスの現実を映す『鏡』なのだ」というものです。

何が、どう、激変したのか?

ごく簡単に言えば、「作品としてのクリエイティビティ」から、「仕掛けのクリエイティビティ」への移行です。20年前は、1本のテレビCMの出来、1枚のポスターの仕上がりこそが、評価の対象でした。それに対して今は、テレビCMも流せばソーシャルメディアも使い、ネットも活用する、といったように、メディアを横断して、「仕掛け」で勝負する受賞作が主流を占めています。

何故かと言えば、1本のテレビCMだけ、1枚のポスターだけでは、消費者を動かすことが難しくなっているからです。多くの時間がネットやソーシャルメディアに費やされ、テレビCMは簡単にスキップされてしまいます。

今年の注目作は!

3年ほど前から、銅賞以上の受賞作だけで1,000点を超えるようになりました。1,000点以上の受賞作の「傾向」など存在しない、というのが正直なところですが、一方で毎年、複数の部門で多くの賞を受賞するその年の話題作が、幾つか生み出されます。今年のそうした注目作を少し、ご紹介しましょう。

まずは、フィルム部門のグランプリを獲得したGEICO(ガイコ)という保険会社の「アンスキッパブル・アド」。

サイバー部門のネイティブアド・カテゴリーの金賞も受賞しています。

これは、YouTube等で動画を見ようとすると、5秒間はスキップできないという、例のアレです。僕の周りでも、あの方式は評判が良くない。イライラする、その商品を嫌いになった、など散々です。それでも、発信する側からしたら、なんとか見てほしい。

そこで考えられたのが、この受賞作。5秒間経つと、登場人物たちが突然フリーズします。動きを止めるのです。そして、その後に、面白いことが起こっていく。例えば、食事をしている4人家族が動きを止めると、でっかい飼い犬が食卓のパスタを食い散らかしていく、といったように。こちら、YouTubeで見ることができますので、ぜひ!いやぁ、笑えます。

Family: Unskippable - GEICO (Extended Cut)

www.youtube.com

次に、日本ではウィスパーと呼ばれている生理用品「オールウェイズ」の、「Like a Girl」。Like a Girlと言われると、ついつい「おしとやかな」とか「未熟な」とかそれらしい行動を取ってしまう一般の女性たちが登場。そんな「らしさ」に縛られず、自分が思う通りに行動しよう、と呼びかけます。

Always #LikeAGirl

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この受賞作も、大変に多くの分野で受賞しました。このように、「ブランドの強い主張」を前面に押し立てたものが、今年は目立ちました。著書で私が「ブランド・ウィル(ブランドの意志)」と呼んでいるものと同様の発想で、DOVEのReal Beautyが有名です。

* * *

一筋縄では行かない現代の広告コミュニケーション、事例としての受賞作を一気に見ることができるのがカンヌライオンズです。私も10年以上にわたって多くのことを学び、そのヒントを元に論文や著書も著してきました。

それと同時に、カンヌライオンズへと私を毎年向かわせるものは、実は、少し精神的なものです。世界中の広告やマーケティングに携わる人々の熱さを肌で感じることができること、世界にいる仲間でありライバルである人たちのチャレンジを目の当たりにできること。そして何よりも、「僕らのこのショウバイって、悪くないじゃん」と再確認できることなのです。

<了>

画像: 今年の注目作は!

著書「これからの広告」の教科書(かんき出版) http://www.amazon.co.jp/dp/4761270950

多摩美術大学教授/コミュニケーション・ラボ代表

一橋大学社会学部卒業。青山学院大学にてMBA取得。広告会社ADKを経て、博報堂DY メディアパートナーズのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに。アメリカの広告会社BBDOのクリエイティブチームと協同でJTの広告表現を制作するほか、カンヌ国際広告祭、アジア・パシフィック広告祭、クリオ、東京インタラクティブアドアワード、ACC賞などで受賞を重ね、カンヌ国際広告祭、アドフェスト、New York Festival、ACC賞では審査員を務めるなど幅広く活躍。

2015年6月に出版された『「これからの広告」の教科書』(かんき出版 http://www.amazon.co.jp/dp/4761270950 )では、カンヌライオンズの作品を中心に、旧来の広告をつくる常識と新たな広告をつくる流れを明快に解説している。

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